滅菌とは何か 

医療・医薬品の進歩や安全な食生活を実現するために
必要不可欠な滅菌。衛生管理の土台となる「滅菌」の
概要をわかりやすく説明します。

滅菌とは

滅菌( Sterilization ) とは 、滅菌物に存在する微生物を死滅させ無菌状態を達成することを指します 。滅菌の対象となる微生物には以下が含まれます 。

細菌( Bacteria )
真菌( カビ ・ 酵母)
ウイルス 細菌芽胞( Bacterial Spores )

特に重要なのが細菌芽胞です 。
芽胞は細菌が過酷な環境を生き抜くために防御カプセルに入ったような状態 であり 、 熱や乾燥、 薬品に対して非常に強い耐性を持っています 。
一般的な消毒や煮沸では死滅しない場合があるため、芽胞まで死滅させることが滅菌の条件となります 。
菌を減らす方法として洗浄、 殺菌( 消毒)、滅菌があります 。それぞれの違いは以下の通りとなります 。

洗浄

洗剤や超音波洗浄機などで単に汚れを落とすこと。殺菌前や滅菌前に必ず行う作業です。

殺菌(消毒)

すべての菌を殺滅できないが、微生物の数を減らすこと。使用する消毒剤により殺菌できる微生物が異なります。

滅菌

芽胞を含む微生物を 限りなくゼロに近づけること。

なぜ滅菌が必要なのか

研究・検査の場合、滅菌が必要なタイミングは「実験前」と「実験後」です。

実験前の滅菌は、「実験を正しく行うための前提条件」として必要となります。
主な滅菌物は、研究や試験で使用するピペット、シャーレなどの実験器具、培地や生理食塩水など液体が挙げられます。
これらに微生物が存在すると、適切な検証・評価ができず正確な実験結果が得られません。

実験後の滅菌は、実験や評価で使用した微生物が付着している可能性がある実験器具や手袋、マスクなどを廃棄前に無菌化するために必要となります。
この廃棄物滅菌は、感染性微生物の施設外流出を防ぎ、作業者・周辺環境の安全を確保するために不可欠です。
製薬工場や食品工場では、生産に関わる器具類、無塵衣などを作業前に滅菌する必要があります。
これらは医薬品や食品を安全に製造するために必要不可欠な滅菌作業です。

無菌性保証水準「SAL」とは

滅菌とは微生物を限りなくゼロに近づけることを指します。
NASAとWHOの研究結果を基に、厚生労働省が発行している日本薬局方で採用されている世界基準があります。
それが無菌性保証水準です。

無菌性保証水準とは、「無菌と判断できる状態」を指します。
なぜ「無菌状態」ではなく「無菌と判断できる状態」なのかというと、
滅菌においては微生物がゼロ個の完全な無菌状態を理論上保証することができないからです。

無菌性保証水準は、英語で”Sterility Assurance Level”と言い、”SAL”(サル)と呼ばれています。
医療機器の製造や、医療機関で行われる滅菌で求められる無菌性保証水準はSAL 10⁻⁶が一般的です。
滅菌された製品を100万個検査したときに、生きた微生物が残っている確率が「1個以下(100万分の1以下)」であることを意味しています。

SALを達成するためのD値・Z値・F値

滅菌は、「何℃何分で滅菌したか」だけでは不十分です。理由は下記のよります。

・菌の種類によって熱への強さが異なる
・滅菌物の大きさや量によって温度上昇速度が異なる
・同じ滅菌時間でも実際の殺菌効果が異なる

そこで、滅菌効果を客観的に評価するために、D値・Z値・F値という考え方が使われています。
これらの数値により滅菌対象の微生物によって異なる滅菌時間を、計算式で求めることが可能となります。

D値とは

D値(Decimal Reduction Time)とは、「ある温度において微生物を90%(1桁)減少させるために必要な時間」を意味します。
これは滅菌対象の微生物により異なります。例えばオートクレーブにおける121℃でD値が1分の場合・・・

時間生存菌数
開始時1,000,000個
1分後100,000個
2分後10,000個
3分後1,000個
4分後100個

となります。
つまりD値は「菌がどれくらいの速さで死滅するか」を表す指標です。
下記表は代表的な微生物の121℃で滅菌した場合のD値を表しています。

菌種D121(分)
セレウス菌0.007
バチルス・アトロファエウス0.5
ジオバチルス・
ステアロサーモフィラス
2.0
スポロゲネス菌0.8-1.4
ボツリヌス菌0.204

D値が高いということは、その微生物の数を10分の1にするために必要な時間が長い、ということです。
つまり、熱耐性が高く、死滅しづらいことを意味します。
表の中で最もD値が高いのは、ジオバチルス・ステアロサーモフィラスです。
これは121℃で滅菌した場合、菌数を10分の1にするために2分かかることを表しています。

Z値とは

Z値とは、「D値を1/10にするために必要な温度上昇幅」です。 例えば・・・ 

温度D値
111℃10分
121℃1分
131℃0.1分

の場合、Z値は10℃です。つまり、温度を10℃上げると殺菌力が10倍になるという意味になります。
反対に10℃下がると、同じ滅菌効果を得るためには10倍の時間が必要になります。

F値とは

F値とは、「温度と時間を合わせて評価した総合的な滅菌効果」を表します。
「どれだけ滅菌効果が蓄積されたか」を示す累積ポイントのようなものです。
例えば、121℃で10分 と 131℃で1分
これらはほぼ同じ滅菌効果となり、どちらもF₀=10となります。
F値が高いほど滅菌効果は大きくなります。 

F値(F₀値)の簡易計算式で表すと次の通りです。

F:F値(121.1℃換算の滅菌効果)
t:その温度での保持時間(分)
T:滅菌温度(℃)
Z:Z値(通常、オートクレーブでは10℃)

D値・Z値・F値とSALの関係

滅菌前に100万個(10⁶個)の菌が存在すると仮定します。
SAL10⁻⁶を達成するためには、10⁶個 → 10⁻⁶個まで減少させる必要があります。これは12桁の減少に相当します。
もし121℃におけるD値が1分なら、1分で1桁減少するため、12桁減少には12分必要となります。
これが医療機器や高レベル滅菌でF₀=12がよく使用される理由です。

まとめ

■ D値 → 菌が死滅するスピード(種類により異なる)
■ Z値 
→ 温度による滅菌力の変化
■ F値 
→ 実際に得られた滅菌効果
■ SAL 
→ 最終的な無菌保証レベル

目に見える滅菌の指標

SALのような無菌性保証水準やD値、Z値、F値などを用いても、微生物は目に見えないため、実際に滅菌ができているかどうか判断できません。
そこで、滅菌可否を視覚的に確認する方法があります。

滅菌の視覚化 パラメトリックリリース

滅菌物が必要な滅菌条件を満たしたことを確認して判定する方法です。
例えば、 ISO/TS 17665-2にて滅菌条件を一つの基準として示されている121℃15分を満たしていれば、理論上は微生物が死滅していることが判断できます。
これにより、無菌試験を省略することができます。

滅菌装置の運転データを視覚化し滅菌効果を保証する考え方がパラメトリックリリースです。
オートクレーブで滅菌の視覚化をするためには、運転データを蓄積、閲覧ができるレコーダーやUSB通信機能などが必要になります。
医薬品製造における「適正製造規範(Good Manufacturing Practice)(GMP)では必須の考え方であり、GMP対応仕様のオートクレーブもあります。

ケミカルインジケータ(CI)

最も一般的な「滅菌の可否を色で確認する指標」です。滅菌テープ、CI付滅菌バッグなど多様な形状があります。滅菌温度に達すると色が変化するタイプと、温度・時間で変色するタイプがあります。

これらのケミカルインジケータは滅菌物の表面に張り付けられることが多く見受けられます。その場合は、滅菌物の中心温度が滅菌温度に達しているかが判断できません。よって、滅菌物の中心部に貼り付けることが必要です。

バイオロジカルインジケータ(BI)

判定に時間を要しますが、最も信頼性が高い指標です。実際に微生物を使って滅菌効果を確認する試験方法です。BIに含まれている微生物は死滅するスピード(D値)が最も大きいジオバチルス・ステアロサーモフィラスが一般的です。

耐熱性の非常に高い微生物が入った培地カプセルを、滅菌物とともに滅菌処理を行い、滅菌後はインキュベーターで55~60℃、24~48時間で培養します。確実に滅菌ができていれば培地が変色せず陰性となり、滅菌不良であれば培地が変色して陽性となります。

実際の微生物を使って滅菌効果を確認するため信頼性の高い指標となります。

さまざまな滅菌方法

滅菌対象物の材質、形状、熱耐性などに応じて、さまざまな滅菌方法があります。
ここでは広く利用されている主要な滅菌技術とその原理、そして適用における課題を解説します 。

高圧蒸気滅菌

原理:飽和蒸気による熱エネルギーで微生物や芽胞を死滅させる。

一般条件メリットデメリット
121℃/15~20分
134℃/3~5分
滅菌能力が高い
芽胞にも有効
有害物質が残らない
滅菌効果の再現性が高い
処理時間が短い
熱に弱い素材不可
電子機器不可
金属腐食の懸念
乾熱滅菌

原理:高温の空気で微生物を死滅させる。

一般条件メリットデメリット
160℃/120分
170℃/60分
180℃/30分
ガラス器具に最適
金属腐食が少ない
油脂や粉末も処理可能
エンドトキシン不活化
(250℃以上)※
熱に弱い素材不可
長時間必要
エネルギー消費大
※死滅した芽胞の破壊・分解
EOG滅菌(エチレンオキサイドガス滅菌)

原理:ガスが微生物のDNAに作用して死滅させる。

一般条件メリットデメリット
低温(30~60℃)で処理可能
複雑形状でも浸透性が高い
包装後の滅菌が可能
熱に弱い素材も処理可能
有毒で発癌性リスクがある
残留ガス除去に時間を要する
コストが高い
過酸化水素ガスプラズマ滅菌

原理:気化した過酸化水素の強力な酸化作用で微生物を死滅させる。

一般条件メリットデメリット
低温滅菌可能
残留毒性がほぼない
サイクルが短い
熱に弱い素材も処理可能
長い細管は苦手
液体・粉体は不可
専用包装材が必要
コストが高い
放射線滅菌

原理:微生物のDNAやRNAを破壊し、増殖できなくすることで微生物を死滅させる。

一般条件メリットデメリット
包装後に滅菌可能
大量生産向き
均一処理が可能
専用施設が必要
小規模施設では導入困難
材料劣化の可能性
コストが高い