
洗浄
洗剤や超音波洗浄機などで単に汚れを落とすこと。殺菌前や滅菌前に必ず行う作業です。

殺菌(消毒)
すべての菌を殺滅できないが、微生物の数を減らすこと。使用する消毒剤により殺菌できる微生物が異なります。

滅菌
芽胞を含む微生物を 限りなくゼロに近づけること。

滅菌は、「何℃何分で滅菌したか」だけでは不十分です。理由は下記のよります。
・菌の種類によって熱への強さが異なる
・滅菌物の大きさや量によって温度上昇速度が異なる
・同じ滅菌時間でも実際の殺菌効果が異なる
そこで、滅菌効果を客観的に評価するために、D値・Z値・F値という考え方が使われています。
これらの数値により滅菌対象の微生物によって異なる滅菌時間を、計算式で求めることが可能となります。
D値とは
D値(Decimal Reduction Time)とは、「ある温度において微生物を90%(1桁)減少させるために必要な時間」を意味します。
これは滅菌対象の微生物により異なります。例えばオートクレーブにおける121℃でD値が1分の場合・・・
| 時間 | 生存菌数 |
| 開始時 | 1,000,000個 |
| 1分後 | 100,000個 |
| 2分後 | 10,000個 |
| 3分後 | 1,000個 |
| 4分後 | 100個 |
となります。
つまりD値は「菌がどれくらいの速さで死滅するか」を表す指標です。
下記表は代表的な微生物の121℃で滅菌した場合のD値を表しています。
| 菌種 | D121(分) |
| セレウス菌 | 0.007 |
| バチルス・アトロファエウス | 0.5 |
| ジオバチルス・ ステアロサーモフィラス | 2.0 |
| スポロゲネス菌 | 0.8-1.4 |
| ボツリヌス菌 | 0.204 |
D値が高いということは、その微生物の数を10分の1にするために必要な時間が長い、ということです。
つまり、熱耐性が高く、死滅しづらいことを意味します。
表の中で最もD値が高いのは、ジオバチルス・ステアロサーモフィラスです。
これは121℃で滅菌した場合、菌数を10分の1にするために2分かかることを表しています。
Z値とは
Z値とは、「D値を1/10にするために必要な温度上昇幅」です。 例えば・・・
| 温度 | D値 |
| 111℃ | 10分 |
| 121℃ | 1分 |
| 131℃ | 0.1分 |
の場合、Z値は10℃です。つまり、温度を10℃上げると殺菌力が10倍になるという意味になります。
反対に10℃下がると、同じ滅菌効果を得るためには10倍の時間が必要になります。
F値とは
F値とは、「温度と時間を合わせて評価した総合的な滅菌効果」を表します。
「どれだけ滅菌効果が蓄積されたか」を示す累積ポイントのようなものです。
例えば、121℃で10分 と 131℃で1分
これらはほぼ同じ滅菌効果となり、どちらもF₀=10となります。
F値が高いほど滅菌効果は大きくなります。
F値(F₀値)の簡易計算式で表すと次の通りです。

F:F値(121.1℃換算の滅菌効果)
t:その温度での保持時間(分)
T:滅菌温度(℃)
Z:Z値(通常、オートクレーブでは10℃)

D値・Z値・F値とSALの関係
滅菌前に100万個(10⁶個)の菌が存在すると仮定します。
SAL10⁻⁶を達成するためには、10⁶個 → 10⁻⁶個まで減少させる必要があります。これは12桁の減少に相当します。
もし121℃におけるD値が1分なら、1分で1桁減少するため、12桁減少には12分必要となります。
これが医療機器や高レベル滅菌でF₀=12がよく使用される理由です。
まとめ
■ D値 → 菌が死滅するスピード(種類により異なる)
■ Z値 → 温度による滅菌力の変化
■ F値 → 実際に得られた滅菌効果
■ SAL → 最終的な無菌保証レベル
SALのような無菌性保証水準やD値、Z値、F値などを用いても、微生物は目に見えないため、実際に滅菌ができているかどうか判断できません。
そこで、滅菌可否を視覚的に確認する方法があります。
滅菌の視覚化 パラメトリックリリース
滅菌物が必要な滅菌条件を満たしたことを確認して判定する方法です。
例えば、 ISO/TS 17665-2にて滅菌条件を一つの基準として示されている121℃15分を満たしていれば、理論上は微生物が死滅していることが判断できます。
これにより、無菌試験を省略することができます。
滅菌装置の運転データを視覚化し滅菌効果を保証する考え方がパラメトリックリリースです。
オートクレーブで滅菌の視覚化をするためには、運転データを蓄積、閲覧ができるレコーダーやUSB通信機能などが必要になります。
医薬品製造における「適正製造規範(Good Manufacturing Practice)(GMP)では必須の考え方であり、GMP対応仕様のオートクレーブもあります。
ケミカルインジケータ(CI)
最も一般的な「滅菌の可否を色で確認する指標」です。滅菌テープ、CI付滅菌バッグなど多様な形状があります。滅菌温度に達すると色が変化するタイプと、温度・時間で変色するタイプがあります。
これらのケミカルインジケータは滅菌物の表面に張り付けられることが多く見受けられます。その場合は、滅菌物の中心温度が滅菌温度に達しているかが判断できません。よって、滅菌物の中心部に貼り付けることが必要です。

バイオロジカルインジケータ(BI)
判定に時間を要しますが、最も信頼性が高い指標です。実際に微生物を使って滅菌効果を確認する試験方法です。BIに含まれている微生物は死滅するスピード(D値)が最も大きいジオバチルス・ステアロサーモフィラスが一般的です。
耐熱性の非常に高い微生物が入った培地カプセルを、滅菌物とともに滅菌処理を行い、滅菌後はインキュベーターで55~60℃、24~48時間で培養します。確実に滅菌ができていれば培地が変色せず陰性となり、滅菌不良であれば培地が変色して陽性となります。
実際の微生物を使って滅菌効果を確認するため信頼性の高い指標となります。

滅菌対象物の材質、形状、熱耐性などに応じて、さまざまな滅菌方法があります。
ここでは広く利用されている主要な滅菌技術とその原理、そして適用における課題を解説します 。
高圧蒸気滅菌
原理:飽和蒸気による熱エネルギーで微生物や芽胞を死滅させる。
| 一般条件 | メリット | デメリット |
| 121℃/15~20分 134℃/3~5分 | 滅菌能力が高い 芽胞にも有効 有害物質が残らない 滅菌効果の再現性が高い 処理時間が短い | 熱に弱い素材不可 電子機器不可 金属腐食の懸念 |
乾熱滅菌
原理:高温の空気で微生物を死滅させる。
| 一般条件 | メリット | デメリット |
| 160℃/120分 170℃/60分 180℃/30分 | ガラス器具に最適 金属腐食が少ない 油脂や粉末も処理可能 エンドトキシン不活化 (250℃以上)※ | 熱に弱い素材不可 長時間必要 エネルギー消費大 |
| ※死滅した芽胞の破壊・分解 | ||
EOG滅菌(エチレンオキサイドガス滅菌)
原理:ガスが微生物のDNAに作用して死滅させる。
| 一般条件 | メリット | デメリット |
| - | 低温(30~60℃)で処理可能 複雑形状でも浸透性が高い 包装後の滅菌が可能 熱に弱い素材も処理可能 | 有毒で発癌性リスクがある 残留ガス除去に時間を要する コストが高い |
過酸化水素ガスプラズマ滅菌
原理:気化した過酸化水素の強力な酸化作用で微生物を死滅させる。
| 一般条件 | メリット | デメリット |
| - | 低温滅菌可能 残留毒性がほぼない サイクルが短い 熱に弱い素材も処理可能 | 長い細管は苦手 液体・粉体は不可 専用包装材が必要 コストが高い |
放射線滅菌
原理:微生物のDNAやRNAを破壊し、増殖できなくすることで微生物を死滅させる。
| 一般条件 | メリット | デメリット |
| - | 包装後に滅菌可能 大量生産向き 均一処理が可能 | 専用施設が必要 小規模施設では導入困難 材料劣化の可能性 コストが高い |
